【対談】齋藤新 × 横内究 vol.5 話はさらに映画音楽の深淵へ

映画音楽的にしびれるシーン

齋藤 映画音楽で、ぞわってくる瞬間ってありません? 私なんかは、ウィリアムズだと「レイダース」で、冒頭の神殿のくだりなんて、1カット1カットにあわせて音楽が変わっていって、急に神々しい感じになったり、そうかと思うと急に激しくなったり、ピンチになって脱出して、だけど1回もあのレイダースマーチがかかっていない・・・そういう画と音が一体になっているときっていうのが結構自分的にはしびれるし、横内さんに注文するときもそんなことを言うと思います。

横内 そうですね。

齋藤 横内さん的にはどういう感じの映画音楽がしびれます?

横内 クリント・イーストウッドの「アメリカン・スナイパー」のエンドクレジットはしびれましたね。

齋藤 あれって・・・音楽鳴ってなかったですよね?

横内 (笑)そうです。

齋藤 ああ、まあでも、あれはよかったですね。普通は英雄を讃える曲じゃないですか、ああいうのって。

横内 そう、たぶん普通はそういう発想になると思うんですよ。そこはクリント・イーストウッドはそうはさせなかったわけじゃないですか。あそこはようやく彼に静寂が訪れた。

齋藤 この逆説。いいですね。映画音楽でしびれるシーンは?って聞いて、音楽の無いところを言うっていう。

横内 でも、無音も音楽ですから。

齋藤 そうですね。

横内 あとは、クリストファー・ノーラン「ダンケルク」。映画自体はどう評価したらいいか迷う映画ではあったんですけど、終盤、いろんなことがおわって、今まで見てきた映画が音楽にすごく支配されていたってことに気づいたんですよ。観てる間は気づいてなかったんですよ。なんだけど、最後に、それまでの激しい戦闘が終わって、主人公たちにひと時の平穏が訪れるわけじゃないですか。そのシーンで今まで鳴っていたある音が止むんですよ。

齋藤 あれ?なんだっけ?

横内 あるんですよ。いままでずっと鳴っていたんだってことに気づいたんですよ。僕は。

齋藤 何の音です?波?

横内 あのね、時計の秒針の音。

齋藤 ええ、それ気づかなかった、へえ。

横内 秒針の音がずーっと鳴ってるんですよ。

齋藤 あ、まあでも、タイムリミットの映画ですもんね。3つのタイムリミットの。

横内 でもタイムリミットの映画だからって秒針の音使います?普通。

齋藤 うん、まあね。これでもう時間を気にしなくていいんだってことになったんですかね。

横内 ああ、いままでずっと鳴ってたんだってことに気づいて・・・。僕は正直ハンス・ジマーってのはそんな好きな作曲家ではないんですけど(※1)、ちょっといけすかねーなこいつって思ってるんですけど(笑)。 でも、ああ、ハンス・ジマーにやられたって思って。なんだかんだいってこの人やっぱすごい人なんだなって思いましたね。

齋藤 そうなんですよ。俺もなんだかんだでジマーには、悔しいけどやっぱりすごいなって思うときがあります。さっきの「アメリカンスナイパー」の話聞いて、逆パターン思い出しましたよ。コーエン兄弟の「ノー・カントリー」って映画。

横内 ああ、見てない。

齋藤 あの映画って、音楽がずっとかかんないんです。一回もかかんないんです。それでエンドクレジットでだけかかって、かえってぞわってしました。そのエンドクレジットで「Music by Carter Burwell」(※2)って出るんですね。この人たち仲いいんだなって思って。

横内 へえ、おもしろい。それは、ほんとは作ってあったんですかね

齋藤 そうですね・・・もしかしたら作ってオミットしたのかもしれないですね。

横内 いらないな、いらないなってやってったら全部なくなったっていう。

齋藤 しょうががないから最後だけ残したっていう感じかもわかんないですね。

※1 ハンス・ジマー
「レインマン」(1988年バリー・レビンソン監督)あたりからハリウッドで頭角を表してきたドイツ人作曲家。90年代はリドリー&トニーのスコット兄弟とブラッカイマー制作映画で映画音楽にカッコよくノリよくセンスよくな潮流を産み出した。だからゴールドスミスの好きな横内さんが彼に対して、イケメンでスポーツできてリーダーシップある転校生的なイケスカねー感じを持つのもわかります。なお、ゴールドスミスはハンス・ジマーをあまり好ましく思ってなかったのではないかと、勝手にそんな風に思ってます。
あるインタビューでゴールドスミスは「最近の映画音楽は何人もでよってたかって作っていてなんなんだいあれは。僕とジョン(ウィリアムズ)だけだよ一人で全部作るのは」と言ってましたが、この時期沢山の弟子たちに音楽を作らせていた代表格がハンス・ジマーだったので。でもジマーの「クリムゾン・タイド」や「ブロークン・アロー」や「ラスト・サムライ」は私は大好きで、勝負に出るときの朝は聞くようにしています。横内さんも何のかんの言っていつだか「インセプション」のサントラ褒めてました。

※2 Carter Burwell カーター・バーウェル
コーエン兄弟おかかえの作曲家といってもいい方。だからジョエル・コーエンの妻のフランシス・マクドーマンドが主演した「スリー・ビルボード」の音楽も担当してるのか・・・と思ったら、マーティン・マクドナー監督とはその前からいいコンビだったようで、むしろバーウェルがマクドーマンドを誘ったのかもしれない。近年は「キャロル」「スリー・ビルボード」でアカデミー賞候補となっているが受賞を逃しており、ハリウッドで「キャリアのわりにオスカーが微笑まない作曲家5人衆」の一人となっている。
あとの4人はダニー・エルフマン、ジェームズ・ニュートン・ハワード、アラン・シルベストリ、トーマス・ニューマン。

音楽家 横内究の未来への展望

齋藤 横内さん的には将来的に、こんな作品をやってみたいとか、どういう感じの映画にかかわってみたいとか、そういうのあります?

横内 やっぱり、いろんな音を使いたいなというか、それが目的ではないんですけど。映画を作るうえで、この映画にあう音、この場面にあう音楽っていうのは、この世には存在しない音楽のはずじゃないですか。CDから持ってきて充てれば、なんとなく合ってるような気はするんだけど、でも実は違う・・・はずで・・・だから新しい曲を作んなきゃいけないんですよね。その理屈で行くと、映画のある場面の曲を作るときに、ピアノの音も弦の音もそこにあう唯一の音があるはずで。
今僕が曲を作るうえでは、コンピューターにいろんな音があって、その中から選んで作るんですけど、選ぶのではなくこの映画にあう音って何だろうって・・・なんなら楽器を作っちゃう人っているじゃないですか。そういうことって取り組みとしてやってみたいですよね。必要ならばですよ。それ自体が目的になっちゃうとおかしいから。そういう、ストイックさってのはかっこいいなあって思いますよね

齋藤 昔のハリウッドの巨匠って、ヘンリー・マンシーニ(※1)とか、ゴールドスミスもそういうところあったらしいんですけど(※2)
新しい音をすぐ使うとか、探してくるとか。ゴールドスミスなんか、シンセサイザー黎明期に映画音楽に取り入れるってのをやり始めてましたね。

横内 早かったですよね。もう一つ良いですか。実は他の劇伴の話をいただいてまして

齋藤 おおお

横内 ぼちぼち始まるかなってところです。舞台なんですよ。公演日が一年以上あるんですよね

齋藤 横内究作品のサントラを出したいなって思ってます。この三作品の。

横内 サントラの曲名ってのは誰に命名権あるんですかね。

齋藤 作曲家じゃないんですか?

横内 そうなんですかね。映画の曲作るときって、曲名って考えないじゃないですか。M1とかM2とかじゃないですか。曲名ってどうすればいいんだろってのはちょっと思ってまして。

齋藤 曲名は俺がつけるなら「狂ったるる子」とか。

横内 どれだろ。

齋藤 もしサントラ作る場合は曲名も考えていただけたらと思います。

横内 どれくらい喋ってたんですか?

齋藤 1時間くらい?

横内 2時間近くいってますよ。

齋藤 これは本当に本編より長くなってしまいましたね。

横内 ほんとだ、いけね。

齋藤 15分くらいのつもりだったんですけど。では、このへんでまとめたいと思います。
より一層の素晴らしい音楽制作と、そしてまた久しぶりに横内さんの監督する映画も観れたらいいな、なんてうっすら思いながら。また僕も次回作いつになるかわかりませんけど、その時もまた。

横内 お待ちしております

齋藤 はい、是非ともまた一緒に作品を作っていけたらなと思います。今回の映画も「ミラクルナンバー9」はじめ数々の素晴らしい楽曲をありがとうございました。

横内 いえ、こちらこそ。

齋藤 素晴らしい音楽になっていると思います。というわけで松本を代表する、というか日本を代表すると言っても過言ではない・・・

横内 あんまり持ち上げないで(笑)

※1 ヘンリー・マンシーニ
「ティファニーで朝食を」で有名な映画音楽の巨人。ジョン・ウィリアムズはマンシーニの指揮するスタジオでピアノを弾いておりマンシーニは彼の師匠に当たる。新しい音への興味がすごかったらしい。
ハワード・ホークスが「ハタリ!」の音楽に当時の大巨匠のディミトリ・ティオムキンを起用した。ホークスは「ハタリ!」の舞台となるアフリカで買いそろえた現地の民族楽器の数々を使うことをティオムキンに要求したが、ティオムキンは楽器を勝手に決められることに機嫌を悪くして降板した。ホークスは変わって当時若手のマンシーニに音楽を依頼。スタジオに来たマンシーニは初めて見る珍しい楽器の数々に目を輝かせて、本当に全部使ってよいのかとホークスに聞いたという。

※2 ゴールドスミスにもそういうところ
ハリウッド映画音楽ジョークで、「ゴールドスミスの録音中に変な音を立てるな。その音にとびついて作曲やり直しちゃうから」みたいなのがあります。うろ覚えですが。

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