好きな作曲家
齋藤 作曲家でいうと好きな方ってどなたですか。映画音楽で。
横内 ジェリー・ゴールドスミスはやっぱり好きですね。
齋藤 ゴールドスミスだとどれが好きです?
横内 そうですね、彼も色々書きますもんね。やっぱり「ポルターガイスト」もそうだし・・・メロディが良すぎるんですよ。
あとは劇伴作家として見習いたくなる作品としては「ランボー2怒りの脱出」(※1)とか、あとは「ルディ・涙のウィニングラン」(※2)とか、曲を聴いて映画がイメージできる、映画をちゃんと音楽に変換できているっていう。そういうところがあるかなと。
齋藤 「ランボー2」なんかは、ゴールドスミスが時々やる「ワンテーマだけで押し切る」のいい例ですね。ほとんどあの曲だけで押し切っちゃってるけど、そこも色々使い分けていて・・・映像が目に浮かぶ…って言ってもだいたいスタローンの顔しか思い浮かばないんですけど。
横内 後ろで爆発が起きているっていうね(笑)。
それ以外っていうと、日本人だと菅野よう子(※3)なんかは好きなんです。さっきのジェームズ・ニュートン・ハワードじゃないですけど、菅野よう子も何でもやっちゃう人なんで、菅野よう子っぽさがあるかっていうと難しいところではあるんですけど・・・ジャズもやればオーケストラも書くし、テクノも書くし、ロックも書くしっていう人だから・・・。なんだけど・・・アニメのサウンドトラックとかをぱっと聞いて、すごいハイセンスなジャズが流れてくると、これ菅野よう子じゃねって見るんですよ。そうするとやっぱりって。だからある意味すごい無個性っていうか彼女自身は器用貧乏っていうんですけど、すごい器用でありながら、「ぽさ」があるんですよ。
齋藤 日本の作曲家って色んなものを器用にやらざるを得ないようなところはあるのかなって。大島ミチルさん(※4)なんかも、本当にハリウッドに行ったほうがいいんじゃないのかなって思うくらいの人なんですけど、でもわりとこじんまりした映画でこじんまりした編成の曲書いても、様になる曲を書けるし。
横内 あと、今回ですね、この話をするにあたって、色々調べている中で、おっ、この人いいじゃん!っていう方を、僕はこの方の名前を知らなかったんですけど・・・ヤン・カチュマレック(※5)。知ってます?
齋藤 あ! はいはい、えーと・・・
横内 お、知ってた?
齋藤 あの・・・ジョニー・デップの映画でアカデミー賞とった人ですよね。なんだっけ・・・「ネバーランド」
横内 そうそうそうです。
齋藤 あと、割と私が最初に意識した映画が、ダイアン・レインと・・・誰だったかな・・・映画はつまんないですよ、不倫の映画みたいなやつ(※6)。でも、それあたりからこの人はいいなと思ってて、「ネバーランド」の時はサントラも買いましたけど。
横内 あ、そうなんですね。僕がたまたま持ってたDVDで、「ロスト・ソウルズ」っていう映画があって、これは監督が・・・監督がですよ、ヤヌス・カミンスキーなんですよ(※7)。
齋藤 あ、俺それ知ってるかも。ウィノナ・ライダー出ているやつ?
横内 そうですそうです。
齋藤 観てはいないですけど、ヤヌス・カミンスキーが監督してるんですか? すごいですね。
横内 この「ロスト・ソウルズ」の音楽がヤン・カチュマレックなんですよ。あらためてこの人のサントラを聞いてみると、いいなぁっていう。昨日今日とかの話ですけど、発見した。
齋藤 僕もサントラ持ってるのは2枚くらいだから、そこまで詳しくは語れないですけど、重すぎないし。
横内 わりと軽やかなんですよね。
齋藤 モリコーネとかジョン・ウィリアムズのような濃い感じじゃなくって、軽いけど広がりがあるというか、さらにメロディもキャッチーだし、すごくいい人だなって思ってます。
横内 音楽家として魅力がありますね。
齋藤 ジョン・ウィリアムズももうおじいちゃんだから、その下の世代、ハンス・ジマーとかより若い?
横内 (ネットで調べながら)ポーランドの方ですよね。
齋藤 ポーランドの作曲家はいい人多いですよね。
横内 そうなんですか。
齋藤 コッポラの「ドラキュラ」の音楽やってたボイチェフ・キラール(※8)とか、あとキェシロフスキ映画の音楽やってた、名前が難しい人、ズビグニエフ・プレイスネル(※9)とかすごくいいです。
横内 よく出てきますねぇ。
齋藤 なんせ、サントラ大好きですから。
横内 わかりました。カチュマレックは今66才です。
齋藤 全然若手じゃないですね(笑)。まあ、ジョン・ウィリアムズ87才とかと比べたら、まだ若手ですよ。
横内 まあ、そうですが(笑)。ハンス・ジマーの方が若いんだ。61ですね。
齋藤 ハンス・ジマーも61になるんですね。
横内 じゃあ40代で出てきたんでしょうね。
齋藤 ジョン・ウィリアムズだって「ジョーズ」のころでとっくに40超えてたころですよね。
横内 おちおちしてられないですね。我々も。
vol.1「挿入歌ミラクルナンバーナイン」
vol.2「飲食店BGMとゲーム音楽風ミラクルナンバーナイン」
vol.3「劇伴音楽について」
vol.4「映画サントラマニア同士のディープな領域」
vol.5「話はさらに映画音楽の深淵へ」
※1 ランボー2怒りの脱出
ジョン・P・コスマトス監督、そういえば脚本はジェームズ・キャメロンの戦争アクション映画。一作目のベトナムで受けた心の傷は何処へやら、ベトナムの奥地で叫びながら撃ちまくって爆発。音楽は銃撃にも爆発にもスタさんの顔にも負けることなく、いやそれ以上に爆裂している。ベトナム感あるメロディを奏でるシンセと、やたらワイルドなオーケストラが、スタさんの一挙手一投足とともに踊る。
※2 ルディ・涙のウィニングラン
1993年。デビッド・アンスポー監督の感動系スポコン映画。アメフト選手にあこがれる小柄な青年の物語。ゴールドスミスはアクションとSFの印象が強いが、時折こうした感動ドラマも手掛けて、またうまい。ゴールドスミスのコンサートで、「ルディ」のテーマと、バスケ映画「勝利への旅立ち」のテーマ曲を組曲風にまとめた曲を演奏している。ゴールドスミスにとってもお気に入りの作品らしい。
※3 菅野よう子
実写映画としては「下妻物語」や「海街diary」で名を残すが、アニメの仕事が印象深い。「創星のアクエリオン」「マクロスプラス」「∀ガンダム」そしてなんといっても「カウボーイビバップ」
※4 大島ミチル
ゴジラシリーズで伊福部昭は別格として、音楽面でもっとも素晴らしいと思うのはミレニアムシリーズの機龍編で、その音楽担当が大島ミチル。それはジョン・ウィリアムズなみのド迫力のオーケストラだった。ほかに森田芳光監督とのコラボも印象深い。
※5 ヤン・A・P・カチュマレック
ポーランド出身の作曲家。ジャン・A・P・カズマレックと表記されることも。「ネバーランド」マーク・フォースター監督(「チョコレート」「007慰めの報酬」)、ジョニー・デップ、ケイト・ウィンスレット主演でアカデミー賞を受賞。この映画、ピーターパンの原作者ジェームズ・バリが劇作「ピーターパン」の初演を成功させるまでを描いた作品で、かなり泣ける。カチュマレックの音楽の最高にしびれるシーンはジョニー・デップがクマとダンスするシーン。
※6 ダイアン・レインの不倫の映画
「運命の女」2002年。「危険な情事」のエイドリアン・ライン監督が描く、ダイアン・レインの旦那がリチャード・ギアで、でもダイアンは若いイケメンと不倫の恋に燃えるみたいな、官能的背徳的恋愛ドラマ。つまんない映画とついバカにしたが、見た直後はけっこう感動した記憶がないでもないが、今全然ストーリー思い出せない。しかしヤン・A・P・カチュマレックの音楽はとても心に染みるいい仕事だった。
※17 ヤヌス・カミンスキー
「シンドラーのリスト」以降の全スピルバーグ作品で撮影を担当している、撮影監督。スピルバーグ作品以外でもたまにみかけるが、ほぼスピルバーグおかかえ。「シンドラーのリスト」と「プライベート・ライアン」でアカデミー賞撮影賞を受賞。その彼が撮影でなく、監督を務めたのがウィノナ・ライダー主演の「ロスト・ソウルズ」(2000年)。カミンスキーもポーランド人なので、同郷のカチュマレックと意気投合したのかもしれない。
※18 ボイチェフ・キラール
ポーランド出身同士で気が合うのかロマン・ポランスキーの映画の音楽もやってます。ジェーン・カンピオン監督の「ある貴婦人の肖像」の音楽は大傑作。
※19 ズビグニエフ・プレイスネル
この名前を言えるようになるまで何年かかったか。キェシロフスキ映画の音楽が印象深く、とくに「トリコロール」の「青」と「赤」の音楽は絶品。