【対談】齋藤新 × 横内究 vol.1 挿入歌「ミラクルナンバーナイン」


住まいが松本市(長野県)と戸田市(埼玉県)と遠距離なため、対談はビデオチャットを利用。画面右側の大きい方が横内氏。
2019年9月15日収録

音楽に歌詞がついて歌声がついて振付までついて

齋藤 さてまずは、今回の映画の一番の魅力といっても過言ではない挿入歌「ミラクルナンバー9」についてお聞きします。最初にお話ししたのはたしか2018年の2月だったと思うんですけど、率直に言ってどう思いました?

横内 面白そうだと思いましたよ。アイドルの曲を書くっていうのは、楽しそうじゃないですか。単純に。

齋藤 最初の脚本段階ではト書きに「ももクロ風」って書いてあったんですけど、でも実は、僕は言うほどももクロ知らなくて、なんとなくのイメージで書いていたんです。すると横内さんが僕はBABY METALがいいと思いますって言ってくださって、聞かせてくれたら、とてもかっこよくて、じゃあその路線でってことになったんですけど、横内さんはそういう今どきの音楽にもけっこうアンテナを張ってるんですか?

横内 そんなに一生懸命聞いたりはしないです。正直なに聞いたらいいかわかんないし。古いのばっかりですよ。自分が好きで聞くのなんて。BABY METALみたいのはそんなにないですよ

齋藤 挿入歌で意図したのは本編でガンガンかかるベートーベンとは全く違う曲であること。でも間奏部分に一瞬、例の「歓喜の歌」が入ってくるっていう曲にしたいなって思ってました。こっちの想像以上のものを作ってくれたなと思ってます。で、あの曲を、私の想像以上に横内さんが「ノッてるな」って思うときがありまして。頼んでもいないのにアレンジ直しましたって送ってきたこともあったじゃないですか。

横内 そうでしたっけ?

齋藤 これ以上どこ直すのって思いながら、でも新しいのを聞くともっと良かったりするんですよ。そういうところでこの人明らかにのってるなって思うことがあったんですけど。

横内 うん、まあ、楽しかったですよ。打合せしてる段階からわりとノッてました。イントロのギターは打ち合わせの時から浮かんでいたので、それでメタルっぽいだけでなく、アイドルっぽいシンプルさとか、爽やかさとか、そういうのもあったほうがいいなとか、色々自分が考えたことが形になりやすかったんですよ。そんなに試行錯誤していないんですよ。あの曲って。

齋藤 わりとあっさりできた?

横内 あっさりっていうと違うけど。サビが最初にできていたわけじゃないんで、イントロから順に聞いてる人の耳に届く順に作っていったんです。ぼちぼちサビやんなきゃ、サビどうしよう、これまでゴリっとした音だったから、サビはアイドルらしくしたいよなって思って、それがちゃんとつながり、2コーラスやってそろそろ第九いれなきゃなと思って入れてみたら、わりとすんなりポンってはまったとか。

齋藤 私の要求は「第九を入れて」と「ロック風」しかなかったんですよね。歌詞はどう思いました?(※1)

横内 僕が思っていたアイドルソングの歌詞とはずいぶん違ったんですよね。中身は二の次で、聞いた感じの語感のポップさが重要みたいな、だから歌詞書けって言われたらどうしようって思ってたんですよ。で、さやかさんが書いた歌詞はとてもちゃんとしていたんで。齋藤さんの前作(※2)の世界観が少しあるのかなって。何か裏設定とかあるんですか?

齋藤 歌詞の方はですね、ベートーベンの第九と憲法第9条をかけていて、実は反戦ソングです。あまりそれを露骨に言うと政治っぽくなりすぎるので、ふわっと、かつポップに。最初の「ワクワク」「ドキドキ」とか、ああいう小さい繰り返しをするようなの、オノマトペっていうんですか。
それで初めて山城まことちゃんが歌って、彼女すごく頑張って、最終的には横内さんのミラクルなミキシングによって、すごくいい感じになりました。歌が付くのはどうでした?


2018年6月長野県松本市の上土劇場で行われたライブシーン撮影。
観客役のエキストラの前でパフォーマンスする山城まこと。

横内 なんだろ、曲を作るってのを趣味としてやってきて・・・今年30周年なんですよ。

齋藤 え、作曲活動30周年ですか。

横内 一番最初に作曲らしきことをしたのが14の時なんで・・・
やっぱりインストって難しいんですよ。作る側としては。歌ものだったら、イントロ、AメロBメロ、サビ、間奏、またAメロBメロサビ、サビくりかえしてアウトロ・・・っていう、型があるんで・・・。だから趣味でやってるときって、歌ものはたくさん作ったんですよ。かといって誰かが歌うってわけではないですし、曲作って歌詞までは書くんだけど、完成はしないんですよ。歌が付かないっていうのはたくさんあったんで。だから、誰かの歌がちゃんと自分の曲につくってのは、ほんと久々で、だから楽しかったし、おおおって思いました。

齋藤 山城まこちゃんもすごい頑張ったんですよ。歌詞覚えるのも最初一苦労で、そのあと声が出てないとか言われて、そしたら今度振付が出てきて4分間踊りっぱなしで、よくやってくれました。

横内 あの振付すごいですよね。あれはどういう方なんですか。

齋藤 私も今回の作品で初めて関わったんですけど、今回の映画の主役の古本さんが監督した前の映画がありまして(※3)。
その時にダンサーとして参加されていた方なんですよ。その縁で古本さんがいい人知ってるからつれてくるよっていって連れてきてくれまして。その方、大澤由理さん(※4)という方なんですけど、自分で振付を考えてきてくださって、魚屋アイドルっていうことで、魚っぽい動きとか、コンブのような揺らぎとか、わりとちゃんと作品の雰囲気を汲んでくれまして。

横内 そんなつもりで見てなかったですね。もう一回ちゃんと見よう。自分の曲にダンスがつくなんて経験ないんで、今後もあるかどうかわからないくらいのことなんで。スゴイっと思って。

齋藤 僕もすごいと思ったんですけど、それよりもまことちゃんマスターできるのかなって、そっちの不安もあって。でも彼女はマスターしましたね。

横内 マルチですね。

齋藤 本当に、あんなに頑張った娘、初めてですよ。色んな映画創ってきて。だいたいみんなどっかで手抜きするんですけど、あの子は手抜きしなかったですね。やっぱり若いっていいなあって思いました。

横内 若さですよね。大人はずるくなっていくから。

齋藤 ずるくなきゃ生きていけないですもんね。


 

※1 歌詞
作詞は撮影監督でもある齋藤さやか

※2 齋藤さんの前作
「唯一、すべて」2016年作品
政治に興味なく幸せをあきらめていたレズビアンの女性が、恋愛や家族観の多様性を求めて社会に訴え始めるまでの心の変遷を追った作

※3 古本さんが監督した前の映画
「不完全世界」2019年140分 監督:古本恭一&齋藤新

※4 大澤由理さん
ダンサー、女優、ふりつけ師
女優として「雨のやむとき」(山口優衣監督)、「私は自撮り依存症の女」(大川晃弘監督)等に出演

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